「いってきます」と玄関を出るのではなく、コーヒーを片手にリビングのデスクへ。 私たちの働き方が大きく変わった今、住まいにおける「仕事場」の考え方もまた、多様化しています。
かつて「書斎」といえば、ドアで仕切られた個室が当たり前でした。しかし最近、Instagramやインテリア雑誌で見かけるのは、リビングの奥やダイニングの片隅に、まるでインテリアの一部のように溶け込んだワークスペース。
こうしたオープンスペースに設けられたワークスペースは、なぜこれほどまでに増えているのでしょうか。今回は、その魅力と、実際に導入する前に知っておきたい注意点を、メリット・デメリットの両面から探っていきます。
なぜ「あえて個室にしない」選択が増えているのか?
このトレンドの背景には、単に「書斎を作るスペースがない」という住宅事情だけではない、新しい価値観の変化があります。
在宅勤務が浸透し、仕事が暮らしの一部になったことで、「仕事とプライベートを完全に切り分ける」のではなく、「ゆるやかに繋げながら、どちらも大切にしたい」と考える人が増えてきたのです。
家族の気配を感じながら仕事がしたい。子どもの「ママー、これ見て!」にすぐ応えられる場所がいい。そんな想いが、リビングワークスペースという選択に繋がっているのかもしれません。
光の部分:オープンスペースならではの3つのメリット
1. 家族と繋がる安心感 最大のメリットは、何と言っても「孤立しない」こと。特に小さなお子さんがいるご家庭では、仕事中も子どもの様子を見守ることができ、親にとっても子にとっても安心感が生まれます。仕事の合間に交わすちょっとした会話が、良い気分転換になることも少なくありません。
2. 開放感と省スペースの両立 壁に囲まれた個室と違い、リビングのワークスペースは圧迫感がなく、開放的な気分で仕事に取り組めます。窓からの光を浴びたり、部屋全体を見渡せたりするのも魅力。また、新たな部屋を用意する必要がないため、限られた住空間を有効に活用できるという現実的なメリットもあります。
3. 柔軟な使い方 仕事専用の部屋ではないからこそ、その使い方は自由自在。仕事以外の時間は、子どもが宿題をするスタディスペースになったり、趣味の読書や作業を楽しむ場所になったりと、家族みんなの多目的スペースとして活躍してくれます。
影の部分:快適さを損なう3つのデメリット
もちろん、良いことばかりではありません。生活空間と仕事空間が隣接しているからこその悩みも存在します。
1. 「集中」の壁 テレビの音、家族の話し声、掃除機の音…。生活音は、集中したい時の大きな妨げになります。また、「ちょっといい?」と家族から不意に声をかけられ、思考が中断されてしまうことも日常茶飯事かもしれません。
2. オンオフの切り替えの難しさ 仕事が終わっても、デスクの上のパソコンや書類が常に目に入ると、なかなか気持ちが休まりません。「いつでも仕事ができてしまう」環境は、便利さと引き換えに、だらだらと長時間労働に繋がってしまう危険性もはらんでいます。
3. プライバシーと生活感 オンライン会議中に、家族が後ろを横切ったり、生活感あふれる背景が映り込んでしまったり…。「あ、すみません」が口癖になっていませんか? また、仕事の書類やPC機器が、リビングのくつろいだ雰囲気を壊し、雑然とした印象を与えてしまうこともあります。
「影」を克服し、「光」を最大化するヒント
では、デメリットを解消し、快適なリビングワークスペースを作るにはどうすれば良いのでしょうか。ちょっとした工夫で、その悩みは大きく改善できます。
「音」対策: ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンは、もはや必須アイテム。家族には「この時間は集中タイム」と書いた札をデスクに置くなど、ルールを共有するのも有効です。
「仕切り」の工夫: 背の低い本棚や観葉植物、パーテーションを置くだけで、空間を緩やかに区切ることができます。視覚的にゾーニングするだけでも、集中力は格段に変わります。
「オンオフ」のスイッチ: 仕事が終わったら、PCや書類をさっとしまえる「蓋つきのデスク」や「収納ボックス」を活用しましょう。「片付ける」という行為が、仕事モードをオフにするための大切な儀式になります。
「見た目」への配慮: インテリアに馴染むデザインのデスクやチェアを選んだり、ケーブルボックスで配線をスッキリまとめたりするだけで、生活感はぐっと抑えられます。
まとめ:あなただけの「ちょうどいい」カタチを
リビングワークスペースは、仕事と暮らしの境界線を曖昧にする、現代ならではのスタイルです。集中できない、散らかる、といったデメリットは確かに存在しますが、それらは工夫次第で乗り越えることができます。
完璧な書斎を目指すのではなく、家族との繋がりや開放感を大切にしながら、自分と家族にとって「ちょうどいい」バランスを見つけること。
それが、暮らしと仕事を豊かに両立させる、新しいワークスペース作りの鍵なのかもしれません。あなたの家のリビングにも、素敵な可能性が眠っていると思いませんか?